読書メモ / 平井富雄「ストレスと自己コントロール」を読みました。

平井富雄さんの「ストレスと自己コントロール」を読みました。

平井富雄さんは臨床の現場で医師として活躍する関わる傍ら、脳科学の世界でも活躍し、禅が脳にもたらす影響を科学的に立証した第一人者だとのこと。
本の前半では実際の症例を、後半ではどう心の健康を保つのかが書かれています。
さまざまな症例を、実際に出会った患者さんを例に挙げて説明していて、これはとてもわかりやすかったです。
また、心の健康の保ち方については禅に基づいたものが多いです。

1988年に出版されたものなので、話に出す例えなどにはちょっと古い部分もあります。
とはいえ、心の健康を保つ対策を見ると、本当に、最近ネットなどで見かける、ストレス対策的なものと殆ど同じなのです。
それはマインドフルネスがもてはやされているからなのか、それの出所をたどると平井さんにたどり着くからだとか理由はいろいろありそうですが、やはり根本的なところは変わらないのでしょうね。

引用や要約ではなく全文読むが吉だと思うのですが、やっぱりここで気に留まったことや気づいたことをちょっと引用しながら、私の思ったことなどを書いていきます。

人より先に行きたい
建物とかホテルとか、どこでもいいですが、エレベーターに乗ります。そうすると、日本ほどあのcloseというボタンをさっさと押す国民はいない。外国ではゆうゆうと待っています。だいいち、フランスの古いホテルのエレベーターには、そういうcloseなんかついていません。自動的に閉まるまでゆっくりと待ちます。日本人はついフッと押してしまう。人より早く上(または下)へ行きたい、つまり、競争原理が無意識に支配するあまり待てない、こういう心理になる。(p156)

競争に利点はある。競争があるから進化や成長ができる。でも、日本人は競争が激化しすぎではないか?というはなし。
外国ではエレベーターのボタンが効かないボタンがあるらしいということが、phaさん「持たない幸福論」にも書いてありました(その本の記事はこちらですが、それについては言及していません)。ささいな面でも自分が支配したいと思う面もあるし、早く行きたいという気持ちもある。エレベーターひとつで急ぐ心が垣間見えるのがおもしろい。
で、たしかに日本のエレベーターはボタンを押してすぐに反応するし優秀だけど、フランスのエレベーターは行き先を押すくらいしか操作することがないやつも、効かないボタン装備のやつもあって、おもしろいです。あ、押さなくていいんだ、と思う。
大きな駅のエレベーターだと、ボタンがひとつもなくて、時間になるとしまって動くやつとかもある。時間になるまでみんな待つ。


他人の基準に自分の評価を委ねるなよ
むこうのレディは、とくにイギリスではさすがで、とくに中流階級以上の人は、自分の宝石をかなり持っています。けれども、そのなかで一番優雅なのは、持っている宝石は金庫の中に置いておく。イミテーションを必ず作らせて、イミテーションをつけても、なおかつそれが実物に見える、それがレディの資格です。つまり、自分がレディだと思えばイミテーションをつければいいんです。(p160)

第七章どうして職場ノイローゼが増えているのか?より。
物質的に満たされていたい、向上したいという欲求があり、ある基準としてベンツ、ダイアモンド、ミンク、という三種の神器があった。女性がそれを欲しがるから、男性も買い与えようとがんばる、だから働かなければならない、そうしてだんだんと追い込まれて心を病んでしまう。でもベンツだってドイツに行けば大衆車だし、ダイアモンドは炭素だし、ミンクだって着る機会そんなにないじゃない…というはなし。
今でこそベンツにもダイアモンドにもミンクにも興味のない女性が増えた時代ですが、理想の幸せ像をを追いかけていた頃ははとても重要だったのかもしれない。

これは、最近見る感じの言葉で言うと、物質的な豊かさよりも精神的な豊さ、というところなのかな。
高級な本物をつけることが大事なのではなく、自分がレディであればイミテーションでいい。


気分転換をするということ
そのこだわりの原因が何か、あるいは内容は何かということが、熱中してこだわってしまうと自分でわからなくなってしまう。それが劣等感につながったりして、中尉の集中を妨げたりすることが起こる。(中略)現在の自分にとって、負担あるいはこだわりの内容になっているかということを、その軸にそって考えていくということは必要だと思います。(p239~240)

第十章心の健康の実践法より。
人は熱中しているとやりがいや報酬によって満たされるけれど、熱中しすぎはどうなのか?気分転換したほうがいいよ、というはなし。転換したほうがいい理由はふたつ。
ひとつめは、熱中している対象が仕事であっても、家族や、社会に対してどう関係しているかなどをほったらかしにしてしまう。これは自分と周りとの関係をよくするという、熱中しすぎているのをやめて、周りに目を向けるというような理由。
ふたつめは、一つの事に熱中していると、そのことを完璧にしなければならない!と意気込んでしまう。こだわってしまう。こだわってしまうと、そのこだわりに縛られてに堂々巡りをはじめてしまう。このこだわりを捨てるというために、気分転換をしようという理由。

たしかに、スランプに陥ったときとか行き詰ったときに、それまで頼っていた方法を捨ててあえて別の方法を試してみるのがいいというのは、たまに聞くけど、これを読んで納得でした。
気分転換してなんになるんだと思ったけれど、堂々巡りを始めてしまうと苦しめるだけであまりいろいろ生まれない。自分のこだわりにしばられるのは本末転倒だと。

****

いろいろな心のはたらきや実例が載っていて、なにかととても参考になりました。
大切だと思ったのはやはり上に抜き出した三つで、争わない、比べない、気分転換、なのかなと思っています。

瞑想の事とか引用しなかったけど、読んでやっぱり瞑想も絶対やったほうがいいよな~と思い直したり、毎日瞑想をしていた頃は心の調子が良かったけれど、最近は何日も続けられないのでまたちゃんとやりたいと思ったりしました。

気分転換だけでなく、ストレスと付き合うために色々な方法が提示されています。おもしろいです。