仏教的な見方で、心の問題を見る。「生きる勉強」を読みました。
「生きる勉強」という本をを読みました。上座部仏教の長老、アルボムッレ・スマナサーラさんと、精神科医の香山リカさんの対談本です。
この本の最初のほうに書かれていた、仏教的な心の問題の考え方がおもしろかったです。わたしなりに要約して、書いていきます。
なぜ死にたいのか
「渇愛」という欲求がある。- 五感から刺激を受けたいと思う欲求。(美味しいものを食べたい、楽しいことをしたい。)
- 生存の欲求。(死にたくない。生きていたい。)
- 破壊の欲求。(自分 または 他人を破壊したい。)
破壊の欲求が自分に向かうこと、それが自殺願望の正体。生きるために死にたい、という、矛盾しているような現象が起こる。
この三つの欲は、どれかひとつだけ取り除くことはできない。ひとつ取り除きたい欲があれば、全て取り除く必要がある。しかし、全て取り除くことに抵抗を感じるのが普通。
正しい判断が出来ないことが問題
人間にはいろいろな感情があるが、基本的なものは、欲・怒り・無知の三つ。貪瞋痴(ヒントンチ)という。怒りにはたくさんの種類があり、後悔も怒りに分類される。人間は根本的に無知。無知だから、物事を正しく見ることができず、さまざまな欲や怒りが生まれる。なので、感情それ自体より、感情が生まれる原因=物事を正しく見られないことが、問題とされる。
たとえば自分の子供が登校拒否になったとき、うちの子おかしいんじゃないか?と思ってしまう。それは周りと比べて、おかしいというだけ。正しい判断ができないことで、腫物扱いにつながり、不安や焦りを生みだす。
腫れもの扱いするっていうのは、やっぱり「まわりと比べる」って問題ですよね。まわりと比べて自分の子どもが正常なのか異常なのか、格付けっていうか、今どれぐらいの位置にいるのかって見てしまうんじゃないですかねえ。(香山・Kindle の位置No.879-881)
大切なのは今この瞬間
自分が具体的に生きることができる時間は、過去でも未来でもなく、今。今この瞬間をどうにかすることを、考えるべき。抽象的・長期的にとらえるのではなく、具体的に・瞬間的に時間をとらえる。目の前のことに満足することで、脳は充実感を感じることができる。
また、その瞬間に集中することで、渇愛が働く時間的な余裕は、なくなる。
(なので、死にたいと思う人でも、目の前にあることを集中することは、効果的なこと。)
妄想は、だめ
物事を認識して、そこからねつ造した概念が妄想。考えていることに感情を伴うと、自我が出てきたり、脳が物質を出して体に変化が起こる。だから、思考には気を付けなければならない。
空想は感情を伴っているんです。これはすごく危険。たとえば性的なことを描く場合、頭で空想するたびに「欲」の感情も心の中で生まれるんです。そして、感情が生まれると身体が変化します。脳が物質をぐちゃぐちゃ出しちゃうんですね。(スマナサーラ・Kindle の位置No.376-378)仏教の場合、体が実際に行った罪より、思考の罪のほうが重い。「盗みを働いた」「誰かに暴力をふるった」などの体が起こしたことは、全て思考から来ている。物事それ自体は、謝れば済むこと、
しかし「盗もうかな」「あいつ殴りたい」という感情や思考には、きりがない。
(いまは、ボタン一つで人が殺せる時代なので、余計に気を付けなければならない。)
妄想も、怒りも、体に変化を起こしている。
仏教的に「怒ることは毒」という。怒ると脳から悪い物質が出て、体に毒が回ってしまう。つまり、怒るという自己破壊になる。だから、明るく笑って過ごしているほうがいい。
仏教的に「怒ることは毒」という。怒ると脳から悪い物質が出て、体に毒が回ってしまう。つまり、怒るという自己破壊になる。だから、明るく笑って過ごしているほうがいい。
また、妄想を止めるためにも、今の時間に集中することが大切。未来でも、過去でも、空想の世界でもなく、今。目の前のことに、集中する。
まとめ
- 死にたくなることは、人間だれしも持つ欲求の、一つの形。
- 感情が体に変化をもたらすので、思考に気を付ける。
- 感情を通さず、物事をあるがままに正しく判断する。
- 今この瞬間に集中して、充実感を得る。
おまけ:わたしの感想
主に、この本の最初の部分(第一部)に書かれていたことです。第二部、第三部、第四部も、なるほどなと思うことがたくさんありました。でも、長かった。そして、難しかった…。
一見、香山さんがスマナサーラさんに言い負かされているようにも見えます。ですが、香山さんは常に仏教の外側の視点から質問を投げかけているので、理解の手助けになります。
仏教から見た精神科医療、精神科医から見た仏教の両側から心の世界を覗くことができて、おもしろいです。
「今この瞬間」という考え方が、いままでどうしても理解できなかったのですが、これを読んでちょっと納得しました。